人を一人雇うと、損益分岐点は月48万円上がる【無料の損益分岐点計算ツール】
「そろそろ一人採ろうか」と考えたとき、多くの経営者が見るのは月給の額です。ですが実際に経営を圧迫するのは、その月給ではありません。月給25万円の社員を一人雇うと、会社の損益分岐点は月あたり約48万円上がります。額面の1.93倍です。粗利率が低い商売なら、もっと上がります。
採用の判断は、人件費の話ではなく損益分岐点の話です。ここを分けて考えているうちは、雇った後で数字が合わなくなります。
損益分岐点の計算式は簡単。難しいのは変動費率
損益分岐点売上高の式そのものは、拍子抜けするほど単純です。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率(限界利益率 = 1 − 変動費率)
それでも多くの会社が自社の損益分岐点を言えません。理由は明確で、自社の変動費率を答えられないからです。
- 売上に連動するコスト(材料費・仕入・外注費)と、しないコスト(家賃・人件費・リース)の線引きが会社ごとに違う
- 人件費は原則として固定費ですが、歩合や繁忙期のアルバイトは変動費に近い
- 会計ソフトの試算表は勘定科目で並んでいて、固定費と変動費では並んでいない
つまり式ではなく、自社の数字を式に入る形に整える作業でつまずいているわけです。ここは考え込むより、値を入れて動かしてみたほうが早いと思っています。
30秒で計算できる無料ツールを公開しています
この計算を自動化するため、株式会社ハイデフは損益分岐点計算ツールを無料公開しています。入力するのは3つだけです。
- 月間固定費(家賃・人件費・リースなど売上に連動しないコスト)
- 変動費率(材料費・外注費など売上に連動するコストの割合)
- 現在の月間売上
これだけで損益分岐点売上高、現在の利益または損失、損益分岐点までの差額、安全余裕率が出ます。目標利益を入れれば、そこに届く売上も逆算されます。登録は不要、入力値はブラウザの外に出ません。
【実例】黒字25万円の会社が、一人雇った翌月に赤字へ落ちる
数字で見たほうが早いので、実際に計算します。前提はこうです。
- 月間固定費:150万円
- 変動費率:30%(限界利益率70%)
- 現在の月間売上:250万円
このとき損益分岐点は約214万円、現在の利益は月25万円。安全余裕率は14.3%です。悪くない状態に見えます。
ここに月給25万円の社員を一人採用します。会社が実際に負担する年間総人件費は約405万円(新潟県・35歳・賞与2ヶ月分・労災保険料率0.30%の場合)。これは雇用コスト計算ツールの記事で出した数字です。月あたりに直すと約33.8万円になります。
項目 | 採用前 | 採用後 |
|---|---|---|
月間固定費 | ¥1,500,000 | ¥1,837,601 |
損益分岐点売上高 | ¥2,142,857 | ¥2,625,144 |
月間売上(据え置き) | ¥2,500,000 | ¥2,500,000 |
月間利益 | +¥250,000 | −¥87,601 |
元の利益に戻すのに必要な売上 | — | ¥2,982,287 |
月25万円の黒字だった会社が、一人採用しただけで月8.8万円の赤字になります。元の利益水準に戻すには、月48万円の増収が要ります。年間では約580万円です。

採用を止めろという話ではありません。この48万円をどこから取るのかを決めてから求人を出す、という順番の話です。新人が入って三ヶ月で月48万円を上乗せできる商売なのかどうか。それは求人票を書く前に分かることです。
変動費率が高い商売ほど、採用の重みは増します
同じ一人でも、粗利の構造が違えば必要な増収額は変わります。月あたり33.8万円の人件費増を、変動費率別に並べます。
変動費率 | 限界利益率 | 必要な増収(月) | 額面月給の何倍か |
|---|---|---|---|
30%(コンサル・士業など) | 70% | ¥482,287 | 1.93倍 |
50%(製造・工事など) | 50% | ¥675,202 | 2.70倍 |
70%(小売・卸など) | 30% | ¥1,125,337 | 4.50倍 |

変動費率70%の商売では、月給25万円の社員一人に対して月113万円の増収が必要になります。額面の4.5倍です。同じ「一人採用」でも、業種によって意味がまったく違うことが分かります。
粗利率の低い商売で「人が足りないから採る」を続けると、売上は伸びているのに利益が消えていきます。よくある話です。
まとめ:採用も値上げも、損益分岐点で見ると答えが早い
損益分岐点は、決算のときに会計士から聞く数字ではありません。採用・値上げ・設備投資という、経営者が実際に迷う場面で使う道具です。
- 一人採用するなら、必要な増収額を先に出す
- 値上げを検討するなら、変動費率が下がって損益分岐点がどこまで落ちるかを見る
- 固定費を削るなら、いくら削れば安全余裕率が何%になるかを見る
どれも同じ式で出ます。まわりが人手不足で慌てて採り始めてから計算する、では遅いんですよね。
採用を具体的に検討している場合は、先に会社の実負担額を出しておくと、そのまま固定費として使えます。
よくある質問
Q. 人件費は固定費と変動費のどちらに入れますか。
A. 正社員の給与は固定費です。売上が減っても払う必要があるためです。歩合給や繁忙期のアルバイトなど、売上に連動する部分だけを変動費に分けると精度が上がります。
Q. 変動費率が分からない場合はどうしますか。
A. 直近3ヶ月の「売上」と「材料費・仕入・外注費の合計」から割り出すのが手早い方法です。厳密さより、まず一度出して毎月同じ基準で追うほうが役に立ちます。
Q. 安全余裕率はどのくらいあれば安心ですか。
A. 一般に20%以上が一つの目安とされます。ただし季節変動の大きい商売では、繁忙期の数字だけを見ると実態を見誤ります。年間を通した平均で見てください。
Q. 損益分岐点を下げるには何から手を付けますか。
A. 式のうえでは固定費の削減と変動費率の低下の二つですが、効きが速いのは固定費です。ただし削りやすい固定費から削ると事業が縮むので、値上げによる変動費率の低下と併せて検討することをおすすめします。
【ツール提供】株式会社ハイデフ(新潟県上越市)/経営者の意思決定を支援するソフトウェア開発・コンサルティング
【免責事項】本ツールの計算結果は概算であり、実際の損益とは異なる場合があります。変動費率の定義は業種・会計方針によって異なります。経営判断に際しては税理士または公認会計士にご相談ください。
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