ファイブウェイ・ポジショニング戦略とは、価格、サービス、アクセス、商品、経験価値という5つの分野で自社を分析し、強みを最大化する経営戦略理論です。この考え方を見事に実践し、競争優位を築いた企業の一例が、宿泊業界の異端児「星野リゾート」です。本記事では、ファイブウェイ・ポジショニング戦略の概要と、それを実践した星野リゾート(特にハイエンドブランド「星のや」)の成功要因について詳しく解説します。GAFAの経営者をはじめ、日本でも世界と戦える経営者がたくさんいるのですが、個人的に好きな経営者が星野リゾートを経営する星野佳路社長で、星野リゾートの経営哲学には非常に共感するものがあり、またあこがれでもあります。さて、今回はそんな星野社長が俺のバイブルだと言ったとか言わないとかの、経営戦略理論、「ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」のお話です。ファイブ・ウェイとは5つの分野、価格、サービス、アクセス、商品、経験価値。これらをすべて平均点(3点)以上にした上で1つで業界No1(5点)もう1つで差別化(4点)を目指すポジショニング戦略です。経営とは単純なものではなく多くの要素のバランスからできている。平均点確保したうえで自社の強みを強化していく。例えばBMWは商品ですし、ウォルマートは価格がストロングポイント。セブンイレブンはアクセス。競争優位性を確保していくには、すべての要素で満点を目指そうとするから失敗するということです。「価格、サービス、アクセス、商品、経験価値」の視点で自社を分析して、リソースを配分していくという企業経営の戦略なのですが、ある種「全てに勝たなければいけない」的な日本人的な完璧、完全主義ではなく、5つの内、2点において他社より優位に立つことを求めているので、ほかは市場に対して平均的な状態でよいという現実的な理論です。このファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略に則って成功を収めている企業が、ご存知「星野リゾート」です。宿泊業界の異端児とされる星野リゾートを率いる星野佳路社長はこのファイブ・ウェイに感銘を受けて、経営とサービス設計に落としこんだと自身で言っておられます。詳しくは、本を読めばいいので買って読んで見て欲しいのですが、星野リゾート(星のや)としての一番のストロングポイントは何でしょうか考えてみてください。星野リゾートに学ぶ、ファイブウェイ戦略の実践星野リゾートは、この理論を経営とサービス設計に取り入れ、独自のポジションを確立しました。ハイエンドブランド「星のや」を例に、それぞれの分野を見ていきましょう。価格:高価格帯+ダイナミックプライシング「高級旅館」価格帯に位置づけ、季節や需要に応じた価格変動(ダイナミックプライシング)を導入。単に高いだけでなく、適切な需給バランスをとることでブランド価値を維持しています。サービス:徹底した非日常の演出マルチタスク対応のスタッフが、顧客一人ひとりに合わせた「非日常」体験を提供。画一的なホテルサービスとは一線を画します。アクセス:自社予約率60%の驚異答え:最大のストロングポイントは「アクセス」です。自社サイト経由での宿泊予約率が60%を超えており、一般的なホテル業界(約10%)とは比較になりません。自社サイト予約に注力することで、旅行代理店手数料を削減し、利益率を高めると同時に、顧客体験の質も向上させています。商品:宿泊以上の「体験」商品設計単なる宿泊ではなく、地域文化や自然を取り込んだ「顧客体験」自体を商品化。顧客に新たな物語を提供する設計がされています。経験価値:唯一無二の空間演出土地ごとに異なるコンセプト設計を徹底し、星のやでしか味わえない空間体験を創出。他社が簡単に模倣できない、独自のブランド体験を生み出しています。なぜ「アクセス」が業界No.1なのか?星野リゾートが最も力を入れたのが「アクセス」、つまり予約のしやすさ・購入導線の最適化です。自社サイトでの予約率向上を追求した理由は単純で、旅行代理店(OTA)手数料の削減顧客情報を直接取得できるメリット顧客体験を予約段階からコントロールするためにあります。一般的な宿泊業界では、楽天トラベルや一休、Booking.comといったOTA頼みが主流。しかし星のやでは、OTAの利用を最小限に絞り、自社予約に誘導する動線設計を徹底しています。その結果、他社が真似できない予約導線体験を作り上げ、圧倒的な競争優位性を手に入れました。これは現状他のホテルサービスチェーンではマネが出来ません。なぜなら、宿泊業は基本的にOTAと呼ばれる旅行代理店からの送客にて成り立っているビジネスモデルだからです。楽天とか一休だとか、Booking.comとか。※星のやの宿泊予約は、自社サイトとOTAは「楽天トラベル」しかありません。恐ろしいことに、「予約するところ」から顧客の体験が始まっていると定義しているので予約の仕方からすでに星のやのサービス体験が始まる設計をしています。これはブランディングの教科書的には当たり前なのですが、この細部まで徹底した運用がこのポジショニングを下支えしているのは間違いありません。という事で、日本の宿泊業界の誰もが当たり前であったビジネスモデル、OTAを噛ませた宿泊予約ルールそのものを通り越して、本気で自社サイトの予約率を高めた事がこのファイブウェイポジショニング戦略における「星のや」の業界No1だったのです!ここでトップになることで、競争優位性を確保出来ると分析してリソースをかけた星野社長が非凡であり、業界の異端児とされる所以です。理論を知っていても、それを最適解として落とし込めなければ意味がありません。じゃあ、次点の差別化ポイントはどこ?これをどこに設定しているのか、私には読み取れませんでした。というのも、個人的にみてアクセス以外の4つの要素に対してもすべて高水準で差別化が出来ている状態で、どれも平均より少し上という状態にあるように見えないからです。ヤバい会社です。まとめ:ファイブウェイ戦略を自社に活かすには?ファイブウェイ・ポジショニング戦略は、経営資源の限られた企業にとって現実的で強力な戦略です。自社を5つの軸で客観的に分析し、すべて平均点以上を確保したうえで、リソースを集中投下するNo.1領域を見極めるこれが基本アプローチです。重要なのは、「全てを完璧にする」のではなく、どこで勝つかを選ぶ勇気です。星野リゾートのように、業界常識を疑い、地道な改善とブランディングを徹底できるかどうか。それが、競争優位を築けるかどうかの分かれ道になります。さらに深く知りたい方へ(参考リンク)星野佳路著『競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』星野リゾート公式サイト